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ブルームーン パンドラの甲

ブルームーン

ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
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No  475

パンドラの甲7

パンドラの甲7

一度開いてしまった箱は二度と閉じられない。

唯の病気なら、自分の問題だけ耐えればいい。特に私の病気の場合、今から進行する訳でもないので孝明さえいいと言ってくれるならお互いにそのことには触れずに生きていける。
でも遺伝という鎖がつくとそれはパンドラの箱へと豹変する。
カラマーゾフの三兄弟がその呪縛から逃れられなかったように、私はこの手を負っている。
それは血であり、血統であり、私自身であった。
どんなに医師やカウンセラーが大丈夫だと言っても、私がこの問題から逃れられる訳ではない。遺伝子の多様化なんて難しい言葉を使って、進化なんて複雑な問題を取り上げて話を大きくされたところで、そんなもの一ミリの役にも立たない。
もし、私が戦える方法があるのだとしたら、それは目の前の人間に私が背負っている箱を投げることだけだった。
開いて中から色んなものがあふれてくる。
それを万が一、億が一の可能性で受け取って共に戦ってくれると言ってもらえたら、その瞬間、私は今の自分と向き合える気がした。

「私ね、ずっと負い目に感じてた。この手が大嫌いだったし、もしこの手が子どもにも遺伝してしまうくらいなら、子どもなんて産みたくないとすら思ってた。でもね、あなたと出会って、当たり前の幸せを望むようになっちゃったの。子どもなんていらないし、結婚なんてしたくないって思ってたのに……。だから、話を聞きに行った。もし遺伝性のものじゃないなら、このまま話さなくてもいいかもしれないって思って……」
私の口はもう閉じられなかった。
「……さっき、電話でなんで謝ってたの?」
孝明はしばらく黙りこんでそう尋ねてきた。
「少し自信がなくなったから」
「自信?」
「うん、自信」
「それってどういうこと?」
「自分の手が遺伝性の病気だって分かって、色んな事に自信がなくなったの。あなたのことも、これからのことも、色々」
「……俺と別れたいって思ったってこと?」
孝明はさらに表情を硬くしてそう言った。私はその言葉に思考を巡らせねばならなかった。
「……別れたい訳じゃないの。唯、あなたに話して振られるのであれば、話す前にはなれて行こうかと思っ――」
「嫌だ! 絶対はなれない!」
私が話し終わる前に孝明がそう言った。彼の初めての強い拒絶に驚いたが、それ以上にその拒絶が嬉しかった。
「……どうして?」
胸が詰まる、という状態を初めて経験したかも知れない。その言葉を吐くだけで今の私は精いっぱいだった。
「俺は美香がいい。手が何? 今さらだよ。……遺伝が何? 俺なんか身長も低いし、顔だってイケメンってわけじゃないし、オヤジが禿げてるから禿げるかもしんないじゃん!」
孝明は早口で言葉をまくしたてる。
――俺は美香がいい。
私にはその言葉がだけで十分だった。
「……孝明、禿げるの?」
私は笑いながらそう尋ねた。唯、目から涙が流れるのは止められなかった。
「禿げないようにするけど、分んないじゃん! 子どもだって男の子だったら禿げるかも……。美香は俺が禿げたら嫌いになるの?」
孝明は少々弱弱しく尋ねてきた。
「……坊主頭の孝明もいいかも知れないね」
私は首を振って、そう答える。明らかにほっとした表情の孝明が可愛くて、思わず抱きしめる。
「ん、俺も美香の手も好き」
孝明も力強く私の身体を抱きしめる。
「……ありがとう」
そう言いながら慣れ親しんだ匂いと感触に想いを馳せた。
愛してる、愛されてる。この人に触れた瞬間いつもそう思う。
それ故に、失うのが怖くて、綺麗な思い出のまま捨ててしまおうとした。
今まで、この手を拒絶されることはあったが、はなれて行くことを拒絶されることなんてなかった。
優しい言葉を吐いて、大人の対応を取る人間を何人も見てきた。そんな対応がものすごく怖かった。
孝明にそんな対応を取られたら、多分私は立ち直れなかっただろう。
でも、自分のコンプレックスを隠したまま付き合い続けることも、私には難しかったのだ。
ふと戦おうと思わせてくれた桜木カウンセラーの言葉を思い出す。

「その手の……私と同じ手を持つ女の子は今どうしていますか?」
「……今では私の妻なんです」

私はふっと頬を緩ませながら、あのカウンセラーが独身だったらどうしてたかなぁーと邪な考えを浮かべていた。
孝明には見えないように肩に顔をうずめながら。

パンドラの甲・完

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No  474

パンドラの甲6

パンドラの甲6

「その手の……私と同じ手を持つ女の子は今どうしていますか?」
私は少しの不安と期待を込めて、その一言を口に出した。

その言葉に桜木カウンセラーは目を丸くして見せた。話が大分前に戻ってしまったことが意外だったのだろう。
少しの沈黙は、私の心臓の音をより一層強くさせる。余計なことを聞かなければよかった……。たった30秒程度の沈黙で私はもう後悔をしていた。
「えっと……その女の子ですよね。元気にしています。3人の子どもを産んで、一人は彼女と同じ手を持っている男の子ですが、何時も凄く楽しそうです。相変わらず気は強いですけどね」
次は私が目を丸くする番だった。
桜木カウンセラーの話を聞いて、勝手に話の中の少女は自分だと思い込んでいた。
カアッと顔が急激に赤くなるのを感じる。素直に恥ずかしかった。
「……お詳しいんですね。今でも交流が?」
苦し紛れにそう返事を返した。
「はい――   」

頭がふわふわしていた。
桜木カウンセラーの言葉が何回も繰り返される。どうやって病院を出てきたのかは分からないが、気がつけばそこは病院近くの喫茶店であった。
携帯電話を取り出して、表示画面に彼氏の名前を出す。通話ボタンを押すと、聞きなれた呼び出し音が響く。数回目のコールで向こうから、「もしもし」と男性にしては少し高めの声が聞こえた。
「もしもし、孝明? 今大丈夫?」
『ん? 大丈夫だけど。美香が出かけてからゴロゴロしてただけだし』
「そっか……出来れば会って話したいから、今から行っていい?」
『朝の片づけしてないから、汚くても良ければどうぞ』
「ありがとう。30分くらいでつくから」
『ん。了解』
「孝明……ごめんね」
聞こえるか聞こえないか分からないくらいの音量でそう呟くと、通話を終了した。

しばらくして、孝明の家に着く。チャイムを押すとすぐにドアが開く。あまりの勢いに少し驚かされた。
「ドア開くのが早いからびっくりした」
私はそう言ったが、孝明の表情が硬い気がして、黙った。
取りあえず入れてくれたコーヒーに口をつけながらソファに腰掛ける。朝の残りのコーヒーなのか若干苦い。
「話って何?」
孝明は相変わらず少し表情が硬いままそう言った。
「今日病院に行って来た」
私はストレートに言葉を発した。
「病院?」
「うん」
「まさか子ど――」
「違う!」
「あっ違うんだ」
孝明は微妙な表情を見せてそう言った。喜んでいる様にもがっかりしている様にも見えて、私はいい方にとることにした。
「見たら分かることだから話すけど……私の手ね父親からの遺伝なの」
「……へぇー。湿疹か何かだと思ってたけど」
「痛くもかゆくもないんだけど、遺伝性の病気なんだって」
「そう、なんだ……」
即答されない言葉が私を脅かす。いら立ちとは違う焦りの様な感情がお腹に溜まっているのが分かる。
そう、私は怖かったのだ。

パンドラの甲7に続く



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No  473

パンドラの甲5

パンドラの甲5

「50%……」
私は桜木カウンセラーの言葉を繰り返した。
正直、そこ確率が高いのか低いのかが全く分からなかった。
今の現状として子どもがいないからそう思うのかもしれない。お腹の中に赤ちゃんが息吹いていたら、その確率を恐怖と感じるのかも知れない。それでも、その50%が私がこの手から逃れられない確率を示しているようで、言葉が胃の中に溜まっていくのが分かった。
「半分の確率って言われても分からないですよね」
桜木カウンセラーは私の気持ちを優しくくみ取り、ふんわりと笑った。
あぁ、似てるなぁ。あの時の男の子に。
私はぼんやりと過去に思いをはせる。
自分みたいな女と付き合ってくれている彼氏がいるのはもちろん分かっている。愛しているし、愛されている。そんな恵まれた状況にいるのが分かっていても尚、過去の――それも小学生のころの嬉しかったことがこれほどまでに心に引っかかる。それほど、当時の私は傷ついていたのかも知れない。
その女の子の名前を覚えていますか? 
どこの小学校ですか? 
その子は今どこにいますか?
尋ねてみてもいいのだろうか。下心付きの感情が頭にふわふわと浮かぶ。
もしかすると、その子は私ではないですか?
そう口に出したい衝動と、朝まで一緒に過ごしていた彼氏の温もりが天秤の上で揺れる。
正直、自信がないのだ。目に見えているものとはいえ、彼氏に伝えていないことがある。話したら離れて行くかも知れない。嫌われるかも知れない。嫌な思いをさせてしまうかも知れない。だから言えない。
もし……もし、だ。この目の前の男性があの時の男の子で私に少しでも気持ちを持ってくれたら、全てを分かってくれた上で、色んな関係をスタートできる。勿論失恋する可能性があるのも分かっているし、そこまでうぬぼれている訳ではない。それでも、無条件に受け入れてもらえる。そういう感情を私は今までの人生で両親以外からもらったことがないのだ。それが得られたら、私はどんなに幸せだろう。
そう思うことが、私の頭の中の天秤をさらに揺らした。
「ご出産の予定があるんですか?」
桜木カウンセラーは尋ねる。
「えっ!?」
「いえ、凄く悩んでらっしゃったみたいなので、もしかしてお子さんがいらっしゃるのかと……」
「あっ、いえっ、そんな訳では……」
あなたのことを考えてましたとは言える訳もなく、自分の馬鹿な思考回路に顔が赤くなるのを感じた。
「他に聞きたいことなどございませんか?」
聞きたいことはある。だが、それを口に出した瞬間自分の中で失うものがある。
「……」
「どうかしましたか?」
桜木カウンセラーは心配そうにのぞきこんでくれる。そんな仕草をポジティブにとらえてしまう自分に嫌気がさす。
ドクッドクッと心臓の音が聞こえることが心地いい。
「その手の……私と同じ手を持つ女の子は今どうしていますか?」
私は少しの不安と期待を込めて、その一言を口に出した。

パンドラの甲6へ続く


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No  472

パンドラの甲4

パンドラの甲4

「先生のお話を聞かれてどう思われましたか?」
桜木カウンセラーは柔らかい雰囲気を醸し出しながらそう言った。
「どうって言われても……」
私はツンケンした態度ではあったが先程より幾分か棘を引っ込めていた。
「そうですよね。難しいですよね」
桜木カウンセラーはそう言うと、ふと私の手を見た。私は手に視線が来るのが嫌で何となく広げていた手で拳を作った。
その仕草に気がついたのか、桜木カウンセラーはふっと頬を緩めると、
「昔、私の同級生にも同じ症状の女の子が居たんですよ」
と話し始める。
「同級生?」
私は突然変わった話についていけなくて聞き返した。
「はい。小学校の時の話ですけどね」
桜木カウンセラーは懐かしそうにそう語る。それに対して私は、
「この病気の人ってそんなに沢山いるんですか?」
と聞き返した。
「遺伝性疾患は一般的な病気からするとどの病気を取っても頻度が低いものが多いです。ですので、この病気の方も沢山いるとは言い難いです。推定される頻度としては10万人に1.5人くらいのものです」
桜木カウンセラーは淡々と話す。
「……凄い少ないんですね。じゃあ、先生はそんな珍しい病気の人を二人も見てるんですね」
何か言わずにいられなくて意味の無い言葉を吐いた。
「そうですね。その子も田所さんと同じで人に手を見られると拳を作っていました。気は強い子に見えたんですがやはり気にしていたんでしょうね」
私は桜木カウンセラーの声を聞きながら、はるか昔に私の手をサラサラだと言って触れた少年を思い出した。
「先生はそれでどうされたんですか?」
「触ってみたんです」
「触って?」
「はい。なんだか勿体無い気がして」
桜木カウンセラーは再び頬を緩ませる。
「勿体無い?」
「ええ。その女の子は凄く手を気にしているように私には見えました。ですが、彼女が隠さなければならないほど周りは気にしていなかったんですよ」
「気にしていないって……。周りに色々言われるから、自分が異色であることに気がつくんです。人とは違うって!」
私は自分自身で少し感情的になっているのを感じたが、言葉は止まらず流れて行った。
「すみません。そういう意味で言ったんでは無いんですよ。何というのか、その女の子は凄く色が白くて小柄な子でした。なので、男子がその子を意識してちょっかいをかけていたんですよ。手がどうとかそういうことではなく」
桜木カウンセラーは少し罰が悪そうに付け足した。
「先生には分からないんですよ。そんなこと言ったって、その子がからかわれたのは『手』だった訳でしょ? だったら、手が理由だったか他に意味があったのかなんて、からかった男の子にしか分かりません。ただ、女の子は手の所為だって思ったでしょうね……」
私は昔の自分自身を弁護していた。
「そうですね。もしかしたら、からかった男の子は自分と違うものを認められなかったのかも知れません。分からないものを怖いと感じたのかも知れません。ですが、一つだけ言えることがあります」
桜木カウンセラーは淡々とそう言うと私の目をまっすぐに見た。射抜くような視線に私は動けなくなった気がした。
「……言えること?」
「はい。私がその女の子の手に触れたのは、唯触れてみたかっただけだということです。他と違うとか、見た目が何だとかどうでもよくて、少し気になる女の子の手に触れたかったんですよ」
桜木カウンセラーの言葉が自分に対する告白の様に聞こえて、私はうぬぼれから顔を熱くした。
「先生はその子のことを好きでしたか? 手が違うから気持ち悪いとかそんなことを思わずに、他の女の子と同じように接することは出来ましたか?」
何時しか私は頭ではなく、口に溜まる言葉を吐き出していた。
「……はい。逆に好きだからこそ他の女の子と同じ扱いは出来てなかったかも知れませんね。ですが、その子に対して嫌だとか変だっていう感情はなかったです」
にっこりと笑ってそういう桜木カウンセラーに昔の少年の面影が重なった。
「そうですか。……先生、この手って私の子どもにも遺伝するんですか?」
何となく、先程の桜木カウンセラーの回答で少し現実に帰れた気がした。今自分が見なければいけない方向は過去ではなく未来なのだ。
「この疾患は『常染色体優性遺伝』という形式を取ります。ですので、田所さんがお子さんを産まれる場合、そのお子さん一人一人につき50%の割合で遺伝することになります」
雑談は凄く柔らかな雰囲気で話すのだが、こういう情報は凄く淡々と語ってくれた。それが現実味を帯びていて、今の私にはありがたい気がした。

パンドラの甲5へ続く


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No  471

パンドラの甲3

パンドラの甲

平均点から外れることが異常だと言うのなら、この世の中正常な奴は何人いるのだろう。
いつしか平均点から外れることすらできなくなって、自分を偽る人々は果たして正常なのだろうか。
完璧な人間なんていない……そんな簡単なことすら、自分を正常だと思っている人間には分からないのだろう。


「先生、やっぱり病気なんですか?」
私は分かってはいたが認めたくなくて聞き返した。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師は淡々とそう言った。


ここは病院の片隅に設けられている遺伝カウンセリングルームというものだ。
親ゆずりのこの手足が一体何であるのか、結婚の二文字が気になり始める年齢まで放置していたのだが、やはりはっきりさせておきたいと思い予約を取った。
狭い部屋の一室で何とかプライバシーは最低限守られていますという感じである。予想していたカウンセリングとはずいぶん違う。話しやすい雰囲気とは程遠いのが残念だ。
遺伝の勉強をしたらしき医師が、家系の話を聞いて丸やら四角やらで家系図を書いたり、私の手や足を見て色々メモをしたりしていた。
観察対象という気がして、正直あまりいい気持ちはしないが、この場所にきた目的意識がある分、子どもの頃の病院よりはいくらかましであった。
淡々と話される遺伝の説明。
遺伝とは親から子に伝わる形質であること。例えば親が子に似ることも遺伝の一つだということ。
人の身体は小さな細胞で出来ており、その細胞の中には染色体というものがある。染色体とは人の身体を作る説明書の様なもので、その染色体には遺伝子と呼ばれる身体のパーツを作るための情報がたくさん書かれていること。
「田所さんの場合、一つの遺伝子が他の方とは少し違うために、こういった症状があらわれたと思われます。こちらの資料を見ていただいたら分かるのですが、遺伝性対側性色素異常症と呼ばれるものです。」
医師はそこまで一しきり話すと黙り込み、
「これまでの話を聞かれていかがですか?」
と尋ねた。
私は、
「先生私はやっぱり病気なんですか?」
と馬鹿げたことを聞き返した。
病名がついた。それだけで心臓は落ち着かないし、頭は真っ白であった。
これまで人と違うが、正常だと思っていた自分の身体。健康なのは自分のとりえであると自負したこともあった。
それ故に先天性の病気であると言われたことは思いのほかショックだったようだ。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師はそう言ったが、続けて、
「ですが、この疾患は今、田所さんが気にかけてらっしゃる手足の症状以上に何かが進行するものではありません。今まで通りの生活を送れますし、異常と言っても凄く軽度のものですし、心配はありませんよ。後は美容の問題だけです」
と言った。
心配はいらないという言葉が色んな意味で私の中に重く響く。
これまで通りということは、これからもこの手足を気にして生きていけということである。
心配はいらない? 心配じゃなければこんな場所には来ないだろ! 心の中でそう怒鳴りつけたいのを飲み込む。
心とは裏腹な愛想笑いはこれまでの人生で身に付けた。
いつもその笑顔の裏で泣いていた。口を固く閉ざして、誰にもばれないように、可哀想と思われないように。
そんな気持ちを踏みにじるかの様に言われた「心配いらない」の言葉。
安心しろと言わんばかりの表情は私のいら立ちを増加させた。

そんな時だった。
愛想ばかりのドアがトントンと音をたてた。
「先生、次の患者さんが来られています」
そう言いながら、一人の若い男性がドアから顔をのぞかせた。
医師は「すみませんが、本日はこれで。後はカウンセラーが話を聞きますから」と席を立つ。その態度に私は「何じゃのこ失礼な病院は。もう二度と来るもんか!」と心の中でへそを曲げた。
すると、その若い男性はそんな私に気がついたのか、「すみません。今日は忙しくて……。先生は退席されましたが、他にもお聞きになりたいことやお話になりたいことがございましたら、私に言ってくださって結構ですよ」と医師の座っていた席に座りそう言った。
「そんなこと言われても……」
私は目の前の男性が同年代の人に変わったせいか態度も幾分かでかくなっていた。
「あっそうですよね! すみません。私、遺伝カウンセラーの桜木と申します。えっと……田所さんですね! 田所美香さん」
「そうですけど?」
私はぶっきらぼうに答える。
「先生のお話を聞かれてどう思われましたか?」
遺伝カウンセラーなどという怪しい職業の男は私の態度にも少しも嫌そうな雰囲気を出さず、そう尋ねてきた。
私はそのカウンセラーの柔らかい表情がどこか懐かしく、浮きかけた腰をもう一度椅子へと沈めた。

パンドラの甲4へ続く

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