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ブルームーン 2010年11月
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ブルームーン

ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
No  471

パンドラの甲3

パンドラの甲

平均点から外れることが異常だと言うのなら、この世の中正常な奴は何人いるのだろう。
いつしか平均点から外れることすらできなくなって、自分を偽る人々は果たして正常なのだろうか。
完璧な人間なんていない……そんな簡単なことすら、自分を正常だと思っている人間には分からないのだろう。


「先生、やっぱり病気なんですか?」
私は分かってはいたが認めたくなくて聞き返した。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師は淡々とそう言った。


ここは病院の片隅に設けられている遺伝カウンセリングルームというものだ。
親ゆずりのこの手足が一体何であるのか、結婚の二文字が気になり始める年齢まで放置していたのだが、やはりはっきりさせておきたいと思い予約を取った。
狭い部屋の一室で何とかプライバシーは最低限守られていますという感じである。予想していたカウンセリングとはずいぶん違う。話しやすい雰囲気とは程遠いのが残念だ。
遺伝の勉強をしたらしき医師が、家系の話を聞いて丸やら四角やらで家系図を書いたり、私の手や足を見て色々メモをしたりしていた。
観察対象という気がして、正直あまりいい気持ちはしないが、この場所にきた目的意識がある分、子どもの頃の病院よりはいくらかましであった。
淡々と話される遺伝の説明。
遺伝とは親から子に伝わる形質であること。例えば親が子に似ることも遺伝の一つだということ。
人の身体は小さな細胞で出来ており、その細胞の中には染色体というものがある。染色体とは人の身体を作る説明書の様なもので、その染色体には遺伝子と呼ばれる身体のパーツを作るための情報がたくさん書かれていること。
「田所さんの場合、一つの遺伝子が他の方とは少し違うために、こういった症状があらわれたと思われます。こちらの資料を見ていただいたら分かるのですが、遺伝性対側性色素異常症と呼ばれるものです。」
医師はそこまで一しきり話すと黙り込み、
「これまでの話を聞かれていかがですか?」
と尋ねた。
私は、
「先生私はやっぱり病気なんですか?」
と馬鹿げたことを聞き返した。
病名がついた。それだけで心臓は落ち着かないし、頭は真っ白であった。
これまで人と違うが、正常だと思っていた自分の身体。健康なのは自分のとりえであると自負したこともあった。
それ故に先天性の病気であると言われたことは思いのほかショックだったようだ。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師はそう言ったが、続けて、
「ですが、この疾患は今、田所さんが気にかけてらっしゃる手足の症状以上に何かが進行するものではありません。今まで通りの生活を送れますし、異常と言っても凄く軽度のものですし、心配はありませんよ。後は美容の問題だけです」
と言った。
心配はいらないという言葉が色んな意味で私の中に重く響く。
これまで通りということは、これからもこの手足を気にして生きていけということである。
心配はいらない? 心配じゃなければこんな場所には来ないだろ! 心の中でそう怒鳴りつけたいのを飲み込む。
心とは裏腹な愛想笑いはこれまでの人生で身に付けた。
いつもその笑顔の裏で泣いていた。口を固く閉ざして、誰にもばれないように、可哀想と思われないように。
そんな気持ちを踏みにじるかの様に言われた「心配いらない」の言葉。
安心しろと言わんばかりの表情は私のいら立ちを増加させた。

そんな時だった。
愛想ばかりのドアがトントンと音をたてた。
「先生、次の患者さんが来られています」
そう言いながら、一人の若い男性がドアから顔をのぞかせた。
医師は「すみませんが、本日はこれで。後はカウンセラーが話を聞きますから」と席を立つ。その態度に私は「何じゃのこ失礼な病院は。もう二度と来るもんか!」と心の中でへそを曲げた。
すると、その若い男性はそんな私に気がついたのか、「すみません。今日は忙しくて……。先生は退席されましたが、他にもお聞きになりたいことやお話になりたいことがございましたら、私に言ってくださって結構ですよ」と医師の座っていた席に座りそう言った。
「そんなこと言われても……」
私は目の前の男性が同年代の人に変わったせいか態度も幾分かでかくなっていた。
「あっそうですよね! すみません。私、遺伝カウンセラーの桜木と申します。えっと……田所さんですね! 田所美香さん」
「そうですけど?」
私はぶっきらぼうに答える。
「先生のお話を聞かれてどう思われましたか?」
遺伝カウンセラーなどという怪しい職業の男は私の態度にも少しも嫌そうな雰囲気を出さず、そう尋ねてきた。
私はそのカウンセラーの柔らかい表情がどこか懐かしく、浮きかけた腰をもう一度椅子へと沈めた。

パンドラの甲4へ続く

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No  470

パンドラの甲2

パンドラの甲2

皆一緒が大好きなこの日本では、ほんの少しのことがメリットになりデメリットになる。
群れから外れるためには強くならなければならない。
但し、元々群れに入れないものは打たれ強くならねばならない。

「起きて!」
朝の目覚ましがなって肩をポンポンと叩かれる。
??そっか、この人の家に泊ってたんだっけ?
寝ぼけた頭で目の前の彼の顔をぼんやりと見る。
飲み会の帰りに酔っぱらってタクシーよりも安上がりと自分の彼氏を呼び出した。ブーブーと文句を言いながらも迎えに来る忠犬の様な姿が見たくて、わざと無理難題を吹っ掛けてみたりするのだ。
昨夜の出来事をぼんやりと思い出し、ついでに酔った勢いで行った行為も思い出す。
顔が熱くなるのが分かるが、酔っていた時の話だと割り切る。どうせ初めてじゃない。
一通り脳が動き出すと、人の額にずっと置かれているものが気になった。
取りあえず、額のものを両手でつかんで目の前に引っ張る。彼の口から「痛い!」の言葉が聞こえる。
うむ、男性にしては小さくて色白の手だ。それでも骨や指の節を見るとやはりごつごつとしているのが分かる。
シミ一つない綺麗な手。
その手を強引につかんでいる自分の手に、そっと目をやっては伏せた。
どうせなら綺麗なものだけ見ておこう。
「全裸で寝てたっけ?」
私は恥じらいもなくそう尋ねる。
「なっ! 気がついたら寝ちゃったみたい。気持ちよかったけど」
彼の付け足した最後の言葉が気に食わない……というより単純に恥ずかしくて、枕を投げつけてやった。
洋服を身につけて時計に目をやる。休日だから別にダラダラしていてもかまわないのだが、社会人になってから時計を見る習慣がついている所為かついつい動こうとしてしまう。損な性分だ。
「ご飯食べる?」
コクリと頷き、私より数段マメな彼氏がパンを焼いてくれている間に身支度を整える。
爆弾ヘアー(寝起きで毛量の多い私の頭が大変なことになっているのを彼がそう呼ぶ)を何とか直して、取りあえず見せられる程度にはなった。
軽くお辞儀をしてモグモグと勝手に食べ始める。
「お前は野良猫か!」
怒りながらもコップにコーヒーを入れてくれるから、この人は良い人だ。
そんなことを考えながらコーヒーにも手を伸ばす。
その手が彼の視線の中に入るが、彼はいつも通り何も言わない。
これほど目に付くものについて、尋ねられたこともなければ、握ることをためらうこともなかった。
握りながらじっと見られたことはあるので、気が付いていないわけではもちろんないだろう。

そんな彼を、愛していると感じる。そして、愛されているとも感じる。
それ故に、口を開くことが別れにつながる気がして、胸の中のもやもやには触れようとしなかった。

さて今日の予定だ。
私は再び時計を見ると、彼にお礼を言い、その場を後にした。

パンドラの甲3へ続く



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No  469

パンドラの甲

生きていけるから悩む病気もある。
もし、私の身体が緑色だったら?
誰も近寄ってこなくて、愛想笑いを覚えることはなかった。
もし、私が重病だったら?
生きて行くことに一生懸命で周りを気にする余裕はなかった。
生きていけるから、進まなきゃならないから……だから、辛い病気もあるんだ。

幼いころからのコンプレックスだった手足。
変なシミが出来ていて、自分でも見ることを拒んだ。
手足以外には何のとりえもない平々凡々な人間。それがまたよくなかったのかも知れない。
人と違う一部を持つことは日本では凄く生きて行きにくいもので、なまじ他が平均点な分、劣等感しか残らなかった。
親譲りのこの手足を母は凄く心配した。
「女の子なのに……」
そう言われるたびに、自分は何故男ではなかったのか、そうずれたことすら思ったほどだ。母は私を連れて皮膚科へのホスピタルショッピングを繰り返し、地元ではそこそこ大きな病院も回った。だが、その病院で言われる言葉や、医師が珍しいものを見るような眼に耐えきれなくなった私が病院を嫌いになった為か、何時しかそれも無くなった。
この皮膚疾患の話は家の中ではタブーとなり、母も私が良いのならと考えることを止めていた。
私としては気にしてない訳はない。幼稚園・小学校とそれなりに奇異の目にはさらされてきたし、男の子にはからかわれた。心ない言葉に傷ついていると思われるのが嫌で、気がつけばクラスの女ボスになれるほど気の強い女の子になっていた。
嫌な言葉を受けるたび、へらへらと笑った。
大丈夫です。私は全く気にしてないのです。そんなことは慣れっこです。
そう思いこみたいと思う私の頭と、今すぐにでも泣きだしたい私の心はこの時から少しだけ分裂していたのかもしれない。

ある日、一人の男の子が私の手を見て言った。
「大丈夫なの?」
あぁ、またいつもの言葉か。私はへらへらと緩んだ顔を見せようとした。
すると、男の子は私の手にそっと触れて、続けてこう言った。
「へぇー……見た目は変わってるのに、さらさらなんだね」
大抵の人間は気持ち悪いものに触れようとはしない。私の周りの子もそうであったし、私自身がその子たちなら触れたいとは思わなかっただろう。
彼の行動は、汚いとか気持ち悪いとかそういった感情とは違う、子ども独特の好奇心の様で、それでいて凄く優しかった。
たったそれだけの行為が、私の中では10年以上たった今でも覚えているほど嬉しかったのだ。
少し人と変わっている私に対して、普通に扱ってくれたこと。
それが何よりも嬉しかったのだ。

『パンドラの甲2』へ続く

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No  468

両親の思い出話より

この歳になって、母と恋愛話をすることがある。今でこそ、同居人と化した我が両親ではあるが、付き合っていた当時はそれなりに仲のいいカップルだったようだ。(ちなみにこれは父の意見で、母からすればストーカー(父)とアイドル(母)だったそうだ(笑))
そんな母に、仮に『雪の彼氏が待ち合わせに遅れてきた話』をしたとする。
母の返事は決まってこうだ。
「私は待たせたことはあっても、待たされたことはないよ」
かっこいいと思うか、最低と思うかは人次第であるが、母の性格を考えるとまんざら嘘でもなさそうである。
そんな母にこんな問いをかける。
「最高で何分待たせたの?」
「んー40分だったかな」
母は悩みながら答える。
「へぇー意外に短かったんだね」
私は笑いながらそう答えた。その解答に父が後ろから参戦する。
「ちなみに、30分前から待ってたから、実際は70分待ったけどね」
父のけなげなところに苦笑いしか出来ないが、そんな回答に母は笑いながら「懐かしいね」とだけ返す。
「あの時、朝出かけようとして急にお弁当を作りたくなって、作ってたら40分かかったの」
母は笑いながらそう語った。
今になって思えば女らしさをアピールしたかったのだとか。母のその返事で当時の父の想いはそれなりに実っていたのだというのが分かる。
両親の若いころの話を聞くのは何気に面白く、夫婦ではない二人を見るのも面白い。
我が家の父親はそれなりに亭主関白な人である。唯、たばこと博打と女には流されたことがないのは娘として誇らしい。
そんな父が母を追いかけまわしていた(毎日同じ時間に電話をかけ、週末には絶対にデートに誘っていたそうだ)と思うと、なんだか不思議な気分である。
もしかすると、父は亭主関白ではなく、大黒柱でいたいだけなのかもしれない。
最近ふとそう思うことがある。
母と結婚して、二人の娘を設けて、尊敬される父親になろうとした一つの形が私の中に亭主関白な父親を植えつけたのかも知れないと思う。
それを思うと、踏ん反りかえる父の中に幼い少年が見えた気がした。
公園の真中で王様に成りきって胸を大きく反らせる少年。
その場ではどんな猛獣が来てもひるまないような雰囲気をまとっているが、家に帰るとまた幼き一人の甘えん坊へと戻る。
父は嫌がるだろうが、この歳になって初めて父を可愛いと思えるようになった。

母性は生まれるもので、父性は作られるもの。


そんなことを考えながら、父のコップにお茶を入れた。
いつもは絶対しない私の行動に目を大きく開けながらお礼をいう姿も中々可愛い。
ちょっと位は仲良くしてやるか。
そう思った寒い日の午後。

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