No 147
Date 2008・01・29・Tue
kiss―手の上に尊敬のキスを―14雪の学校ではもうすぐ学生の90%が嫌い(何の根拠もありませんw)であろうと思われるテストがはじまります(泣) 『kiss―手の上に尊敬のキスを―14』
「ここがリゲルか……」 コルとの賭け通り、ホルダーはリゲルの土を踏んでいた。 国全体に漂う、なんとも言えない重苦しい雰囲気は空気すら吸い辛い様な気さえした。 ホルダーの仕事は新しい条約のための現地視察である。別に、平和条約であるダイヤモンドを取りやめる訳では勿論ないが、今ダイヤモンド加盟国は飢餓の危機に瀕しているところが多く、それを何とかしたいというタウリの意思で、他国の状況を覗きに来たのである。 門や王宮の前には無数の兵が立ち、アルデバランとは逆方向に位置するベテルギウスの前の門では時折耳障りな拳銃の音すら聞こえた。 「思わず、ため息を吐きたくなるほどだ」 門に近寄っただけで兵はよい顔はしない。実際ホルダーの胸につけられている国から認可されている証である印さえなければ、拳銃で撃たれてしまいそうだ。 「この様な風景は昔を思い出す」 ホルダーは寒さゆえの吐息かため息か分からぬような空気を吐いた。 アルデバランが平和になる前――そう、自分がスバルに拾われる前、国はそれはそれはひどい状態であった。タウリの父はどちらかといえば今のリゲルの王のような人で、他国を侵略し、国を豊にするタイプであった。 そんな父を反面教師にして育ったタウリだからこそ、あの様に温厚で国民思いの王ができたのかも知れない。しかし、一つ言えることは、彼は決して温厚なだけの無能な王ではないということだ。今のアルデバランがあるのは、父親である王の首を息子であるタウリが討った為であるのだから。 彼にとってさぞかし辛い判断だったと思うが、そうしなければ今頃アルデバランという国はなくなっていただろうとホルダーは思う。 そんなことを考えていてふっと笑みが零れた。それも、ほんの二十年ほど前のことなのだ。 「この国もよい王が立てば変わるのだろうな……」 ホルダーはそんなことを呟きながら、心の中で好敵手として認めているあの銀髪のことを考えていた。 「きっと姫様はお幸せになられるのだろうな」 スバルの顔を思い浮かべ、コルの言葉が頭をよぎる。 ――これではあの人のいう賭けとやらに簡単に負けてしまいそうだ。 ホルダーは頬を緩ませながら、リゲルの王宮へと足を進めた。 「お久しぶりです」 アンバーは明るい声を響かせながらスバルに挨拶をした。 「一昨日に会ったばかりだと思いますが?」 スバルは呆れたような顔をしながら、そう言ったが、 「そうです。一昨日ぶりです」 アンバーが満面の笑みでそう返事をしたので、何も言えなくなってしまった。 「一応聞きますけど、如何してここに?」 スバルは軽くため息を吐いて、そう尋ねた。 「新しい条約の件で来たのですが、無能なもので仕事もほとんどないんですよ。それに、今の私の仕事は姫様に好きになっていただくことかと思いまして」 「またそんなことを言ってらっしゃるの?」 「何度でも言いますよ。それに、アルデバラン王は応援して下さいました」 再び笑顔でそういうアンバーを見て、スバルは今度会ったら父親をグーで殴ってやろうと野蛮なことを考えていた。 「……私、分からないのです。一体恋とはなんなのですか? あなたが私の手の甲に口付けをしてからというもの、あなたの顔が忘れられないのです。如何して止めなかったのかとか、如何して嫌じゃなかったのかとか、色んなことが頭を回っているのです」 スバルは泣きそうな顔をしながらそう言った。 「……それを恋だと思ってはいけませんか? 私のことを忘れられないくらい想って下さっているのだと」 「分かりません。でも、あなたの事嫌いではないと思います……」 アンバーの目を見つめながらそういうスバルは何所か悲しそうで、その瞳を見返すアンバーも少し胸にわだかまりが残った。 このまま彼女に何も言わなければ、これを恋だと言い切ることができれば……きっと彼女は自分のものになるのに。 彼女の瞳が目の前の自分ではなく、誰を見ているのかそれは分かりきっている事実である。 アンバーはゆっくりと目を閉じると両手でスバルを抱きしめた。 「えっ! あの……」 スバルは慌ててアンバーの胸を押し返すが、ビクリともせずアンバーは更に腕に力を入れただけだった。 「――少しだけこうさせていて下さい。あなたの事を如何しても諦め切れないのです」 「如何いうことですか?」 震える声で話すアンバーをスバルは不思議そうに尋ねた。 「本当にお気づきではないのですか? ご自分が誰を愛しているか」 そう告げるアンバーの声は切なく、スバルは胸の奥が締め付けられるのを感じる。 「私は……」 ――誰を愛しているの? スバルは喉の奥に痞えている言葉をグッと飲み込んだ。 尋ねなくとも、スバルが抱きしめるアンバーに誰を重ねているかはスバル自身も気がついていた。 「隣国からはるばる、ようこそ。失礼とは思うが我が国はベテルギウスとの戦争に、飢餓対策とアルデバランと違いやることが溜まっていてね。まぁ、対したお構いもできないが楽に過ごしてくれたまえ」 リゲル王宮の一番高い椅子の上に君臨する男――アポロンを見て、ホルダーはなんとも言えない嫌な気分になった。 王宮の中は素晴らしいものであった。扉を一枚隔てた外とはまるで違う世界のようにきらびやかな構造で、絨毯は毛が長く時折足を取られてしまうほどである。王だけを見るとまるで飢餓など存在しないかの様に、恰幅のいい体系をしていた。 「我が息子アンバーと貴国の姫との縁談もまとまりそうだと聞く。条約も婚姻の記念としてありがたく結ばせてもらえたらと思っているよ」 アポロンはニヤリと嫌な笑みを浮かべながらホルダーにそう告げた。 「婚姻の方はまだその様な事実は……。条約の方も失礼ですが今日一日国の様子を見させていただいただけですが、急いだ方がいいかと思われます」 ホルダーは苛立つ気持ちを抑え、淡々とそう言った。 「それはリゲルが傾いているというのか?」 「はっきりと言わせてもらえばそうかと」 「ふっ、これだから素人は……。そのうちベテルギウスとの戦争も勝利を収める。そうなれば、飢餓対策も訳なく片付くだろう。そうなれば、別に条約などなくとも困らないのだよ」 「王様は真剣にそうお思いですか?」 ホルダーは何所か悲しそうな目でそう尋ねた。 「あぁ。わしの政権は間違っているとは思わない」 アポロンは自信たっぷりの声でそう言った。その言葉にホルダーは目を伏せると、 「そうですか」 とだけ返事をした。窓の外に写る空はいつの間にか灰色になっており、その空からは時折国民の涙であるかのような雨が降り始めていた。 きっとこの人がこの雨に気がつくことはないのであろう。王宮から外を眺めるだけで、きっと雨の冷たさなど忘れてしまっているのだから。 「では、忙しいからこの辺で。わしは忙しいが、息子には言ってあるから王宮の中なら自由に覗けば良いさ」 アポロンはそう言うと椅子から立ち上がり、小さく会釈をしスタスタと行ってしまった。その様子に、アポロンがホルダーにいい印象を持たなかったことが分かったが、ホルダーはあえてアポロンを引きとめようとはしなかった。もとより自分の仕事は現地の視察である。王を眺めていても仕方がないのだ。 「はて、息子とは……?」 ホルダーは首を傾げながらゆっくりと王宮の中を歩き始めた。 スポンサーサイト
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この記事のコメントNo.379 全ての人に、Kiss!
早いもので、記念の1000アクセス達成ですね、句読点は、思いでです。「千里の道も一歩から」です!何時もの絵は、手書きしているのですか?可愛いデザインだな^
絵描きさんになってほしい気持ちです!。 No.382 荒野鷹虎さんへ
そうなんですw
もうすぐ、皆様のお陰で1000HITを迎えそうです^^ 本当に、ありがたいですw 何時もの絵は基本は手書きです^^ 唯、最近ペンタブを買ったんで色が多くついてるやつはパソコン上で描いてることが多いです^^ これも手書きって言うんですかね? もう、いつも褒めてもらっちゃって、本当に照れちゃいますw 区切りを転機に、心機一転もよし、今を更に
発展されてもよし、何を、試みても、楽しく拝見出きる才能ヲ、お持ちです。 (猫がねずみに騙されて干支に入れなかった、照れくささ、を描いてほしいな!)例えばの話ですよ。 No.387 荒野鷹虎さんへ
コメント&リクエストありがとうございますw
ネコがネズミに騙されて干支に入れなかった照れくささですか? 難しそうですけど、面白そうなんで描かせていただきますね^^ 2月8日まではテストなんで更新がまちまちになっちゃいそうですけど、これからも色々チャレンジしていきたいですw ではでは 干支の猫の予感の辛さ、本当に、描いてくれたのですね!無理いって済みませんでした。
よく出来ています。普段は説明が無いと、解らない頭というか想像力が弱いのかなー、昔から漫画買えない時期があったせいかも、頭を柔軟に、しなければ為らないのかとも思います。ごめんなさい。何を。言っているのか、わからなくなっちゃた。 No.395 お返事w
コメント沢山書いていただいてありがとうございます^^
雪も荒野鷹虎さんのブログを覗かせていただいてるんですけど、テストの関係上中々コメントが残せていなくて…… 干支の猫とネズミのイラストは今構想段階ですので、二月の上旬ごろにはUPできるかとw もう少々御待ちを^^; 雪の絵とか文章は本当に自分の主観的なものが多いので、分からないものは分からないって言ってくださったら、勉強させていただきます^^ 荒野鷹虎さんを始めとする皆様のコメントは本当に絵や文を書く上ですごく励みになっておりますw いつもありがとうございますw |
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