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ブルームーン シュークリーム
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ブルームーン

ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
No  282

シュークリーム

 私はよく人から牛乳みたいだねって言われます。

 白くて、栄養があって、元気が出るそうです。

 栄養って言われても……

 まぁそんな私にも彼氏がいます。

 二歳年上の彼が。

 クラブの先輩なんですけどね。

 先輩は色が黒くって、温かくって、優しくて……ココアみたいな人です。

 ココアな先輩と牛乳みたいな私ってお似合いじゃん、とちょっと喜んでみたりしています。

 これは牛乳みたいな私が出会った、シュークリームみたいな彼女のお話です。

 

 今は一年間で学生がもっとも喜ぶ季節。

 ……夏休みに突入した。

 先輩とクラブからの帰り道。

 先輩は今年大学を卒業する。

 こうして学校からの道を一緒に歩けるのも今年で最後だ。

 そんな淋しい事を考えながらふと前を見ると、こんな太陽の下にいても日焼けなんてしないんじゃないかと思えるほど色の白い女の人がいた。

「あっ!」

 私が急に声を上げたのはその女の人が倒れたからだ。

「先輩!」

 私が声をかけるよりも早く先輩は駆け寄っていた。

「大丈夫ですか?」

 私は先輩が助け起こした女の人に声をかけた。

 不思議な感じがする女の人だった。

 細い、か弱い、美しい……いろんな形容詞を並べてみてもどれもピンとこない気がした。

 ……儚い。

 そう、彼女はこれがぴったり合う女の人だった。

 彼女は何も言わず目を見開いて私と先輩を見ていた。

 彼女は話しかけても何も言わず困った私達は熱中症だろうと結論を下し、治るまで仕様が無いので彼女を私の家へと招いた。

「あなた達は恋人?」

 私の部屋で麦茶を片手に彼女は言った。

 彼女の口を開いた第一声はそれだった。

「ええ」

 私は少し照れながらそう答えた。

 先輩は何も言わず、ただぼんやりと座っていた。

 まぁ、もともとが無口でぼんやりしている事の多い人だ。

「そう……いいわね。若いって……」

 彼女は声も淋しげで儚い。

「あなたも若いじゃないですか」

「私? 今年でもう八十になるのよ」

 彼女は笑ってそう言った。

 冗談だろう。

 そう思ったが何処かぞっとするものがあった。

 私は彼女に合わせて少し微笑んだ。

 彼女は二十歳前ぐらいに見えた。

 少しして、私はおやつのシュークリームを彼女に差し出した。

 意味は無かったのだが、何となく麦茶だけでは悪い気がしたのだ。

「これは食べ物なの? へぇ……」

 彼女は面白そうにシュークリームを眺めた。

 シュークリームぐらい珍しくも無いのに。

「美味しい!」

 彼女はそう言って無邪気にシュークリームを頬張った。

 見ていて、和むような笑顔だった。

 先輩が彼女に見とれているので少しムカッときたが……

「昔はこんなの無かったわ……」

 昔とはいつのことなんだろう?

「戦争でね、終戦したのが確か私が十八の時だから1945年ね」

 この人何を言い出すんだろう?

「私の恋人もね、甘いものが好きだったの。彼の家とはご近所だったの。よくいっしょに遊んだわ。あのころが一番楽しかった」

 私は訳が分からず、話かけようと思ったが彼女の雰囲気にはそうし難いものがあった。

 彼女は淡々と語っていった。

 

 彼の方が二つ年上でね、お兄ちゃんって感じだったわ。

 でもね、私が十五歳の時彼は行ってしまった。

 あの戦地へと。

 とりあえず嫁を持たせたいって皆が言って、私と彼との結婚が決まったの。

 私達の結婚生活は三日だけの事だった。

 まるでおままごとね。

 彼は、私を抱こうとはしなかった。

 本当に好きだから、帰ってきてまた会えたらその時にと言って。

 絶対に帰ってくるからって。

 私は待ってたわ。

 彼が帰ってくるのをずっと……

 そして、彼は約束を守ったわ。

 ちゃんと生きて帰ってきた。

 ……でもね、会えなかったの。

 もう少しだけ一緒にいたかったんだけど、無理だった。

 だって――私が待っていてあげれなかったんだもの。

 私が……

 

 彼女はそこまで言うと言葉に詰まった。

 いつしか彼女の話に引き込まれていた。

 私は無意識に彼女の手を握り締めた。

 冷たい……

 手から彼女の悲しさが伝わってきて、何だか泣けてきた。

 先輩にポンポンって頭を叩かれた。

 彼女はそれを見て少し笑った。

「変ね……初めて会う人にこんな話」

 私は無言で首を振った。

「でもね、あなた達の事を見てると思い出すの。一番楽しかったときの事を……」

「その男の人はその後、如何されたんですか?」

 何故か先輩が口を開いた。

「別の奥さんをもらったわ。私もそうしてくれる事を望んだわ……だけど、駄目ね。

悲しいの。彼が、他の人といることがとてつもなく悲しいの。彼の隣が私でありたかった。いつもそう思うの。彼さえいれば何もいらなかったのに……蝉の声を聞くとね、彼の涙を思い出すの。戦地から帰ってきて、黒焦げになった自分の家を見たときの彼の涙を……。私の為に泣いてくれた最後の涙を……」

 彼女はそう言うと静かに涙を流した。

「恋人のお名前なんて言うんですか?」

 無口なはずの先輩が何故か変な質問を繰り返した。

「栄介」

 彼女はポツリと呟いた。

 私は先輩が小さくやっぱりと呟くのが聞こえた。

 彼女は徐に立ち上がり、

「あなたたちとお話できてよかったわ。ありがとう。栄介さんも幸せだった見たいね」

 そう言って、先輩を見ながら微笑んだ。

 私は意味が分からなかった。

 だが、私は彼女の淋しげな表情から、もう二度と彼女には会えないだろうということは分かった。

 不思議だ。

 彼女が窓からふわりと出て行くのを見ても、私は驚きもしなかった。

 それは恐怖ではなく、お伽話の世界に引き込まれたような不思議だったから。

 身体がふわっと浮いたかと思うと彼女は姿を消した。

 何となくシュークリームのような人だったと思った。

 ふわふわしてて、優しそうで、甘そうで……

 それでいて、クリームに入っている洋酒が少し苦い過去を物語っているようだった。

 彼女が美味しいといって食べたシュークリームは彼女自身のいろんなものを飲み込ませたように思えた。

「先輩……あの人、幽霊ですか?」

 私はぼんやりと先輩に解答を求めた。

「そうだろうな……」

 先輩は静かに言った。

「先輩、あの人のこと知ってたんですか?」

 先輩は私の質問に言葉を選んでいるように見えた。

「……栄介って多分俺のじいちゃんだ。」

 私はその一言に目を丸くした。

「昔、じいちゃんから聞いたんだ。あの人が言ったのと同じ話を……」

 先輩は何となく淋しそうに見えた。

 それは私がはじめて見た先輩の表情だった。

「大丈夫ですよ。彼女、悲しいけど栄介さんを恨んでませんから……」

「何で分かるんだ?」

 先輩は不思議そうに聞いた。

「分かりますよ。だって、彼女と男の好みが一緒ですから」

 私は悪戯っぽく微笑みながら先輩にキスをした。

 先輩は真っ赤になった。

「私、先輩が戦争に行ったら、待ってっませんから」

 私は面白そうに言った。

「他のやつと結婚するか?」

 先輩は拗ねたように言った。

「いえ……戦地まで着いていきます」

 私がそう言うと先輩は笑った。

 私も笑った。

 

 私達は幸せだ。

 好きな人と一緒にいられて、好きな人と笑い会える。

 私は今の世の中に生まれた事を初めて感謝した。

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この記事のコメント

No.925
まいど~
ホント不思議なお話しですね~
年齢不詳な謎の女性に涼しくなりました~w
きっと彼氏の爺さんの恋人の生まれ変わりの女性でしょうねぇ

シュークリームは白いホイップ系というか生クリームのが好きなんですが、冷やすと美味いですね~

まぁ兎にも角にも、最近何故かレモンパイのお菓子食べたくなりあらゆるスーパーの菓子棚を探しましたが全く無く、ナビスコのレモンパックというクリームサンドクラッカーを発見して食べてますが気に入ってます◇
ではまた
2008-06-28 Sat 01:43 | URL | ヒポユキ #-[ 内容変更]

No.926
暫くでした、パソコンがストライキを起こし弱っていました。
最初読んでいき[年上の彼氏]と聞いてがっかりしました’〈笑〉本当の話だと思いました。愈々、卒業ですか、早いものですな~。面白いお話でした、!
2008-06-28 Sat 15:51 | URL | 荒野鷹虎 #-[ 内容変更]

No.927 ラストが・・
ニヤリ・・と。
あっという間に読んでしまった。
引き込まれるように。

でも戦地にまで着いて行く、ってのは
案外リアだったりしてww
そんな気がした。

さて、報告です。
ブログなんですが、色々と迷って
続けていく事にしました。
週1~2ぐらい、さらに訪問も少なく
そして、もしコメントをもらっても
なかなかお返事が書けないときも・。

辞めると告知してから、色々と
コメントやメールを。
いつの間にか、お兄さんにもお父さんにもww
なって居たようです。

また改めてになりますが、よろしくお願いします。
では、おへねりを★
2008-06-28 Sat 21:53 | URL | 雫 #Z7LMGkjQ[ 内容変更]

ヒポユキさんへ
丁度この話を書いたのが2年前の今頃だったように思います。夏に先駆けて怪談を、と重い書き始めたのですが、どうも恋愛と怪談を両立させるのは雪には無理だったらしく、このような形に仕上がりました^^;
不思議な感じが少しでも出ていればと思いますw
生まれ変わりとまでは行かなくても、同系統の女性を意識して書いたような気がします(昔のことなんで記憶が……^^;)

雪はカスタードクリームのやつが好きですw
ホント冷やすと美味しいですよね~^^

レモンパック美味しいですよね~w
雪の友達がしょっちゅう買っては雪にくれてますよ~^^
ではでは、コメント有難うございましたw


荒野鷹虎さんへ
パソコンがストライキとは……
雪の場合、学校関係のものを全部パソコンでやってるんで、こやつに壊れられたら学業全般がストップになってしまいます^^;

いえいえ、フィクションですよ~(笑)
ちなみに雪の卒業までには後一年半ほどありますw
来年の今頃には進路やその他の物事が色々決っていると思うと、なんだか不思議な感じです^^
ではでは、コメント有難うございましたw


雫さんへ
お久しぶりですw
ニヤリと笑っていただけたなら、光栄です^^
戦地まで着いていくはさすがに大袈裟かも知れませんが、自分はそのタイプだろうなぁーとは思います(笑)
多分大人しく待っているようなたまではないかと……^^;

ブログ続けられるようで、よかったです^^
また、覗かせてもらいます!
お忙しいようなのでご無理なさらずに、コメントの返事については気にしないで下さいw
(って雪が言うことじゃないですね^^;)

お父さんやお兄さんw
雫さんの包容力がなせる業ですね~^^

はいw 
こちらこそよろしくお願いしますw
ではでは、コメント有難うございました!




2008-06-29 Sun 02:08 | URL | 小米雪 #2zzHlsOw[ 内容変更]

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