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ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
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No  471

パンドラの甲3

パンドラの甲

平均点から外れることが異常だと言うのなら、この世の中正常な奴は何人いるのだろう。
いつしか平均点から外れることすらできなくなって、自分を偽る人々は果たして正常なのだろうか。
完璧な人間なんていない……そんな簡単なことすら、自分を正常だと思っている人間には分からないのだろう。


「先生、やっぱり病気なんですか?」
私は分かってはいたが認めたくなくて聞き返した。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師は淡々とそう言った。


ここは病院の片隅に設けられている遺伝カウンセリングルームというものだ。
親ゆずりのこの手足が一体何であるのか、結婚の二文字が気になり始める年齢まで放置していたのだが、やはりはっきりさせておきたいと思い予約を取った。
狭い部屋の一室で何とかプライバシーは最低限守られていますという感じである。予想していたカウンセリングとはずいぶん違う。話しやすい雰囲気とは程遠いのが残念だ。
遺伝の勉強をしたらしき医師が、家系の話を聞いて丸やら四角やらで家系図を書いたり、私の手や足を見て色々メモをしたりしていた。
観察対象という気がして、正直あまりいい気持ちはしないが、この場所にきた目的意識がある分、子どもの頃の病院よりはいくらかましであった。
淡々と話される遺伝の説明。
遺伝とは親から子に伝わる形質であること。例えば親が子に似ることも遺伝の一つだということ。
人の身体は小さな細胞で出来ており、その細胞の中には染色体というものがある。染色体とは人の身体を作る説明書の様なもので、その染色体には遺伝子と呼ばれる身体のパーツを作るための情報がたくさん書かれていること。
「田所さんの場合、一つの遺伝子が他の方とは少し違うために、こういった症状があらわれたと思われます。こちらの資料を見ていただいたら分かるのですが、遺伝性対側性色素異常症と呼ばれるものです。」
医師はそこまで一しきり話すと黙り込み、
「これまでの話を聞かれていかがですか?」
と尋ねた。
私は、
「先生私はやっぱり病気なんですか?」
と馬鹿げたことを聞き返した。
病名がついた。それだけで心臓は落ち着かないし、頭は真っ白であった。
これまで人と違うが、正常だと思っていた自分の身体。健康なのは自分のとりえであると自負したこともあった。
それ故に先天性の病気であると言われたことは思いのほかショックだったようだ。
「……確かに、遺伝性の疾患の一つです」
医師はそう言ったが、続けて、
「ですが、この疾患は今、田所さんが気にかけてらっしゃる手足の症状以上に何かが進行するものではありません。今まで通りの生活を送れますし、異常と言っても凄く軽度のものですし、心配はありませんよ。後は美容の問題だけです」
と言った。
心配はいらないという言葉が色んな意味で私の中に重く響く。
これまで通りということは、これからもこの手足を気にして生きていけということである。
心配はいらない? 心配じゃなければこんな場所には来ないだろ! 心の中でそう怒鳴りつけたいのを飲み込む。
心とは裏腹な愛想笑いはこれまでの人生で身に付けた。
いつもその笑顔の裏で泣いていた。口を固く閉ざして、誰にもばれないように、可哀想と思われないように。
そんな気持ちを踏みにじるかの様に言われた「心配いらない」の言葉。
安心しろと言わんばかりの表情は私のいら立ちを増加させた。

そんな時だった。
愛想ばかりのドアがトントンと音をたてた。
「先生、次の患者さんが来られています」
そう言いながら、一人の若い男性がドアから顔をのぞかせた。
医師は「すみませんが、本日はこれで。後はカウンセラーが話を聞きますから」と席を立つ。その態度に私は「何じゃのこ失礼な病院は。もう二度と来るもんか!」と心の中でへそを曲げた。
すると、その若い男性はそんな私に気がついたのか、「すみません。今日は忙しくて……。先生は退席されましたが、他にもお聞きになりたいことやお話になりたいことがございましたら、私に言ってくださって結構ですよ」と医師の座っていた席に座りそう言った。
「そんなこと言われても……」
私は目の前の男性が同年代の人に変わったせいか態度も幾分かでかくなっていた。
「あっそうですよね! すみません。私、遺伝カウンセラーの桜木と申します。えっと……田所さんですね! 田所美香さん」
「そうですけど?」
私はぶっきらぼうに答える。
「先生のお話を聞かれてどう思われましたか?」
遺伝カウンセラーなどという怪しい職業の男は私の態度にも少しも嫌そうな雰囲気を出さず、そう尋ねてきた。
私はそのカウンセラーの柔らかい表情がどこか懐かしく、浮きかけた腰をもう一度椅子へと沈めた。

パンドラの甲4へ続く
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