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ブルームーン 出発の時

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ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
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No  477

出発の時

「さて、次はあなたの番ですよ。いってらっしゃい。そして、沢山愛されてらっしゃい」
一つの光はそう言われ、地上へと到達した。

「おめでとうございます、妊娠9週に入ったところですよ」
頭が真っ白になった。身に覚えがない訳ではない。だが、今の私にはこれはおめでたいことではなかったのだ。

――出発の時

彼と私が別れたのは、ほんの1週間前のことだった。お互いまだ学生で、我慢が足りなかったのだろうと言えばそれまでだ。
たわいもない喧嘩をして、そのまま音信不通。私が別れたくないとすがったが、彼の方は聞く耳を持たず、私のもとを離れて行き、電話もメールも通じなかった。
ふと自分のお腹をみる。他に覚えがないから彼の子なのだろう。
「おめでとう」と言われた。「9週目」だと言われた。エコーで「子ども」が見えていると言われた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう――
訳が分からなかった。まさか出来るなんて思ってもみなかった。嬉しいなんて感情は少しもわかなくて、想いは「どうか時間を戻してほしい」それだけだった。
今になって思えば、その時になって初めてセックスの意味を知った気がする。
彼が離れて行くのが怖かったから、身体を許した。コンドームすら見たこともなく、避妊の意味も十分に分かってなくて、してくれているものだと思っていた。
避妊を男性任せにしてはいけない。聞いたことはあったが、こういう意味だったのだと、医師に言われてはじめて気付いた。
私はなんて馬鹿だったのだろう。
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
公園のベンチで思いつめる私に、4歳程度の男の子がそう話しかけてきた。
「悲しいの?」
男の子は隣に座って質問を続ける。私は答えられなくて、さらに泣いた。
「大人なのに、泣いてるなんて変!」
違うの、お姉ちゃんは大人なんかじゃないの。中身はてんで子どもで、やることだけは一人前で、大人のふりをしてただけ。
言葉にはならなかったが、彼の言葉に否定をしたい気持ちだけが頭に残っていた。
「お姉ちゃんいくつ?」
「……20歳」
何とか声を絞り出す。
「ふーん……お姉ちゃんどうして泣いてるの?」
彼は再びそう尋ねる。素直な問いかけだけに色々と厳しい。
「お姉ちゃんはね、少し困ってるの」
私はそれだけ返した。
「困ってるの? お姉ちゃんが出てきたところって、赤ちゃんが生まれるところでしょ?」
彼はどうやら産婦人科から出てくるところから見ていたらしい。その言葉に正直ビクリとした。
「そうみたいね」
「お姉ちゃん、赤ちゃん産むの?」
再びビクリとした。私が産むんだろうか。その問いかけには答えることが出来なかった。
「どうかな……僕、お名前は?」
「……分かんない」
彼は不思議な少年だった。向こうからは次々と質問を繰り出してくるのに、彼のことに関しては何一つ答えてくれなかった。
「産まれてくるときって大変なの」
彼は至極当たり前だが、この年の男の子にしては至極不思議なことを口にした。
「大変?」
「うん、大変。お母さんのお腹の中は凄く暖かくて、いい気持ちなんだけど、でも大変」
当たり前のようにさらさら答えるので、逆に聞いてみようという意思が芽生えたのかもしれない。
「どう大変なの?」
「最初のころは、たまにベットがはがれちゃう子がいるってお友達が言ってた。まだお腹にいたいのに、出されちゃったって」
胸がズキッとした。もしかして、彼は私のことを分かって言っているのだろうか。
「その子のお母さんは、その子のことすごく楽しみにして喜んでくれてたんだけど、急にお腹が痛くなって追い出されちゃったんだって。その子病気だったから」
心臓がドキドキしている。何の話をしているんだろう。
「病気だったんだ……」
「うん、そういうお友達も結構いるんだー。でも、お母さんが泣いてくれたからそれでいいって。また、その時が来たらお母さんの所に行くって」
「……そう」
もし、私が中絶したら、この子は2度と私の元には来てくれないんだろうな。私はお腹を撫ぜてそう思った。

続く
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