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ブルームーン 出発の時2

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ここでは小米雪の普段の生活で気になるお話をエッセイ形式で書き記していきますw
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No  478

出発の時2

出発の時2

「どうしてもお腹の中にいたくて、お腹の中でぎりぎりまで粘っても、出なきゃいけないときは出なきゃいけないみたい」
彼は少し悲しそうにそういった。私は彼の言葉が胸に一つずつ溜まっては苦しくなるのを感じていた。
「病気ってやだなぁー。お母さんとも離されちゃうんだもん。でもね、もっと嫌なこともあるの」
彼は空を見て話していた。この子は病気なのかしら。見たところ元気そうだけど……
「病気になるとお母さんと離されるの? お母さん看病してくれないの?」
私はそう尋ねた。
「どうしても治せないものもあるから、そういう時は神様が連れ戻してくれるんだって。その時が来たらまたお母さんのとこいけるようにって」
「そう、なんだ……」
その言葉に何故かゾクッとした恐怖を感じた。
「病気ならいいよ。また、お母さんのとこいけるかもしれないもん。でも、お母さんがいらないって言ったら、お母さんには二度と会えないんだ」
耳を塞ぎたくなった。怖い、怖い、怖い、怖い!
「……どうして?」
「だって、いらないっていうんだもん。僕たちがどんなに会いたくても、お母さんは会いたくないんだって」
ぼーっとした表情でそう言うが、私の胸をえぐるには十分だった。
「……お、お母さんも、今は駄目ってことかもよ」
「でも、お母さんたち準備が出来たから迎えてくれたのに……駄目っておかしいでしょ? やっぱりいらないんだよ」
涙が止まらなかった。彼の言葉がもはや刺すところの無い程胸にグサグサ刺さる。
「そんなこと……」
「お姉ちゃんまた泣いてる。泣き虫なんだね。でもね、友達の中には泣き声すら上げさせてもらえなかった子がいっぱいいるんだー。だから、僕が神様に文句言ったら怒られたよ」
彼はぷーっと頬を膨らませてすねていた。私はかろうじてその椅子に座っていた。逃げたい、だが彼の話を聞かなければならない気がして、耐えていた。
「ど、うして、怒られた、の?」
とぎれとぎれの言葉だが彼には通じたようだ。
「子どもを産まない権利っていうのがお母さんにはあるんだって。親は親で悩んでるんだって。それでも、そのお母さんはそのまま生きていけるなんて不公平だよね」
「……そうだね。お姉ちゃん最低だね」
私は泣きながらそう言う。伝わらなくてもいい。私自身に言った言葉だった。
お腹の中の子どもをどうやったらないものに出来るか。どうやったら周りにばれないか。どうやったら消し去れるか。
正直、悩む頭をめぐっていたのはそんな言葉ばっかりだった。
「大人はさ……僕らがいなくなったことを少しでも泣いてくれるのかなぁー。よかった、なんて思われたらやりきれないよ」
彼はなんだか大人びた表情でそう口にする。その言葉に返事をすることは出来なかった。
だって、私は彼の言葉を聞いて尚、この子を産む決意が出来てなかったのだから。
「お姉ちゃんは産まれてきてよかった?」
不意に彼がそう尋ねてきた。それは突拍子もない質問であった。
「産まれてきて……?」
まだ、二十歳。もう、二十歳。
正直、それなりの人生ではある。恋もしたし、大学にも行っている。
「人生って何が一番楽しい?」
不思議な聞き方をされたが、その問いも答えることに頭を悩ませた。
「うーん……一番かぁー」
友達と遊ぶのはもちろん楽しい。美味しいものを食べるのも楽しい。別れてはしまったけど、恋をするのも楽しかった。
何よりも……
「――愛されていることかな」
私は何故かそう答えた。
「愛されてる?」
彼の不思議そうな顔の横で私はゆっくりと語る。
――幼稚園で男の子にいじめられた私を慰めてくれたお母さんと、子ども相手にむきになっていたお父さん。
――小学校の運動会には二人で見に来てくれて、照れくさいけど嬉しかった。
――中学に入ってイライラして当たり散らす私に、向き合っては真剣に怒鳴ってくれた。
――高校で友達と上手くいってなかったとき、子どもとしてではなく一人の人として話を聞いてくれた。
――大学になって家を出て行く時、さびしそうな顔で見送ってくれた。
「ふーん……お姉ちゃんは凄く幸せなんだね」
彼はそう言った。そう、私はこんなにも恵まれていたのだ。

出発の時3へ続く。

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